ジャック・マー会長が提唱する「新小売」とは?

「新小売」(New Retail、中国語で「新零售」)は、今や世界的な潮流となってきている。

これは、Alibabaのジャック・マー会長が提唱した概念であり、2016年10月の株主総会で提唱した。

発言概要は当サイトに掲載されている(http://www.tmtpost.com/2505286.html)が、主要部分をピックアップして翻訳すれば以下の通りである。

 

“Although e-commerce is burgeoning today, the next one or two decades will be about “new retailing”, that is, the combination of online retailing and offline logistics.

At that time, internet company would develop offline business, while traditional business will also develop online business. When online and offline business go hand in hand, the real “new retailing” will emerge.”

「今日のeコマースは急速に拡大していますが、今後10〜20年はオンライン小売業とオフライン物流の組み合わせによる「新しい小売業」になっていきます。その時、インターネット企業はオフラインビジネスを発展させ、伝統的ビジネスもオンラインビジネスを発展させていきます。 オンラインとオフラインのビジネスが両立すると、本当の「新しい小売業」が出現します。」

 

このスピーチ以降、Alibabaは小売のオンラインとオフラインの融合を凄まじい勢いで推進している。中国においてはe-commerceは急速に普及してきたが、そろそろ頭打ちになってきており、Alibabaはリアルの世界へ参入することで、その限界を超えて事業を拡大、新たな市場を模索しているといえる

中国では、生鮮食品、スーパーマーケット、コンビニ、家電、生活用品、デリバリーサービスといったあらゆる分野で「新小売」の取組が加速しており、Alibabaとテンセントが熾烈な争いを繰り広げている。

2018年6月のInteropのアリババクラウド ジャパンゼネラルマネージャーUnique Song氏による講演では、新小売の一例として、

  • ECサイト淘宝網(タオバオワン)の体験ストア
  • 次世代型食品スーパー「盒马鮮生(ヘマフレッシュ)」
  • 無人カフェ
  • スマートホーム
  • デジタルコンビニ
  • スマート自販機など

を挙げている。

 

新小売

 

中でも中核となっているとみられるのは「次世代型食品スーパー」のヘマ生鮮である。

頭打ちとなっているe-commerceが成長するためには、オフライン(リアル)店舗の取込が欠かせないが、中でもe-commerce率3%程度である生鮮食料品はブルーオーシャンと言える。しかし、生鮮品をe-commerceで扱うためには、しかし、生鮮食料品を扱うためには、生産拠点から消費者までの配送のリードタイムは1~2日に圧縮しなければならず、その配送経路で品質を保つための温度管理を行うのには大きなコストがかかる。また生鮮食品の生産拠点はあちこちに分散しており、効率的な配送システムの構築は至難の業である。

また、消費者としても、1つとして同じもののない生鮮食品は「現物を見て買いたい」と願うものである。そのため、ブルーオーシャンであることは分かっていても、なかなか本格的な取り組みは進んでいなかった。

そこへ登場したヘマフレッシュは、実店舗を配送拠点とし、半径3キロ以内の消費者へ最短で30分で届ける仕組みを作り上げた。これは、販売側にとっては、実店舗~3キロ以内の消費者宅というシンプルな配送経路をもたらし、消費者にとっても、実店舗を見に行き、その鮮度を確かめて安心することもできる。配送は無料であり、どのような理由でも返品が可能である。また、徹底して、実店舗に買いに来た客を次回以降のオンライン注文に誘導しているといい、冷え込む小売業(オンライン・オフラインとも)に対し、それぞれの業態を組み合わせることで新しい業態を作り出し、成長市場を作り出すことに成功したといえる。現在、ヘマフレッシュの売上の半分以上はe-commerceによるものであり、単位面積あたりの売上は平均的なコンビニの4倍にも上るという(http://www.ejinsight.com/20170918-alibaba-s-hema-supermarket-offers-new-retail-experience/)。

競合のテンセントも黙っておらず、カルフールに出資し、WeChat Payを利用したセルフ決済型スーパーの展開を開始している。

ジャック・マー提唱の新小売の動きは、アメリカにも波及、2017年8月にはAmazonが食品スーパーのホールフーズを買収している。

新小売の概念は日本でもすでに一般的となったO2Oやオムニチャネルと似てはいるが、そのインパクトは想像以上であるようだ。今後、日本でも、世界でもこの小売革命から目が離せない。

 

参考:

https://research.rabobank.com/far/en/sectors/consumer-foods/Hema-Bringing-New-Retail-to-a-Broader-Industry.html

https://www.alibabagroup.com/en/ir/article?news=p161013

http://www.ejinsight.com/20170918-alibaba-s-hema-supermarket-offers-new-retail-experience/

 

執筆者のご紹介
福田 さやか

福田 さやか

東南アジアに特化した高等教育支援NPO法人、慶應義塾大学大学院助教、国際会議支援会社、アジア専門のコンサルティング会社を経て株式会社レインを創業、後にgram参画。

約20年に渡り海外に特化した経済調査、市場調査プロジェクト、イベント、コーディネーションなど豊富な経験を有す。

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