大統領選挙前夜のインドネシアの様子・Joko Widodo大統領肝いりの地下鉄がついに開業した背景

インドネシア地下鉄

2019年4月17日、インドネシア大統領選挙が実施される。その前夜となる、3月上旬、インドネシア・ジャカルタへ出張してきた。

現職のジョコ氏肝煎りのジャカルタの地下鉄は、日本のODAを資金源とし、今月開業とされており、大統領選までに何とか開業したい思惑のジョコ氏に応える形で工事の仕上げが急ピッチで進んでいた。筆者がジャカルタに行ったときには、試運転が行われており、その様子を見ることもできた。
スムーズに電車は動いている一方で、エスカレーター等は工事中であり、本当に今月開業できるのか?という雰囲気ではあったものの、3月24日、ついに開業したというニュースで驚いた。

渋滞が「世界最悪レベル」ともいわれるインドネシアの首都ジャカルタで、待望の地下鉄とはいえ、現地で話を聞くと「Blok-M(歓楽街)までオフィスから渋滞なしで行ける」と喜ぶ日本人駐在員とは対照的に「ごく一部の中心部のみ繋がっていても、その先はどうするのか?結局車やバイクを使わざるを得ない」という一般市民まで、温度差はある模様である。

また、街を行けば、大統領選挙のポスターや看板もあちらこちらで目にすることもできた。選挙の行方はどうなるであろうか。

インドネシア大統領選

現大統領のジョコ・ウィドド氏(57歳)と最大野党「グリンドラ党」党首のプラボウォ・スビアント氏(67歳)の戦いとなる。グリンドラ党は、2008年2月に結成され、母体は「インドネシアの京都大学」とも呼ばれることのある、ジャワ島ジョグジャカルタのガジャマダ大学のスハルディ教授が07年に結成した農民漁民党である。

前回、2014年の大統領選挙では、「元国軍エリート」のプラボウォ氏に対して、「庶民派」のニューフェイスであった、ジョコ氏が約6ポイント差で勝利したが、それに引き続いての一騎打ちとなる。

ジョコ氏は立候補前、ジャカルタ特別州知事であったが、様々な改革を矢継ぎ早に行い、12年10月以来メディアで人気が急上昇、前回の僅差での勝利となっている。ジョコ氏の改革としては、低所得者向けの無料医療サービスの導入や、老朽化した公営市場を改修して露天を公営市場へと移転させ再開発、スラムの拡大を防ぐためのスラム再生計画、また、汚職疑惑の浮上していた幹部の更迭なども行い、クリーンなイメージで知られている。また、ジョコ氏は貧しい家庭に生まれ育った庶民派としても知られている。

一方のプラボウォ氏はかつて、スハルト氏から大統領の地位を狙い1998年の五月暴動を引き起こした黒幕とされており、国軍時代には人権侵害をしていた疑いも持たれていたことがある。スハルト政権崩壊後はビジネスを手掛ける傍ら、ゴルカル党の幹部として政治活動を続けていた。もともと、インドネシアでは第2代大統領スハルト氏、第6代大統領ユドヨノ氏が元軍人であり、軍のエリートが統治を行う同氏の政治は古いタイプの政治とも映る。

 

インドネシアでは、大統領・副大統領がペアで立候補する仕組みとなっている。ジョコ氏は、世界最大のイスラム教徒の暮らす国であるインドネシアにおいて、そのイスラム勢力に配慮する形で宗教指導者のマアルフ・アミン氏(75歳)を副大統領候補としている。一方のプラボウォ氏は、若手実業家で前ジャカルタ特別州副知事のサンディアガ・ウノ氏(49歳)を副大統領候補にしている。また、前大統領であるユドヨノ氏は、プラボウォ氏の支持を表明している。
国民の平均年齢が2018年時点で29歳と若く、いわゆるミレニアル層(2000年代に成人あるいは社会人になる世代)の支持獲得が重要となる中、ジョコ氏は選挙対策チーム長に若手実業家のエリック・トヒル氏(48歳)を据えている。一方、現地出張の際の現地パートナーからの話によれば、プラボヴォ氏の選挙対策には、トランプ大統領を勝利に導いたアメリカのコンサルティング会社が関わっているということであり、「今の世論調査では、圧倒的にジョコ氏有利だが、何が起こるかわからない」という現地の方談であった。
大統領選挙は7割近い投票率があり、前回の大統領選挙では、1億3,300万票以上が投じられたといわれている。「ジョコ氏が勝ったらこの路線が継続されるから、今準備しておいて、選挙結果が分かり次第すぐに動けるように準備している」とする現地の会社なども多かった。

注目の選挙は4月17日。今後のインドネシアを占ううえでも、結果からは目が離せない。

執筆者のご紹介
福田 さやか

福田 さやか

東南アジアに特化した高等教育支援NPO法人、慶應義塾大学大学院助教、国際会議支援会社、アジア専門のコンサルティング会社を経て株式会社レインを創業、後にgram参画。

約20年に渡り海外に特化した経済調査、市場調査プロジェクト、イベント、コーディネーションなど豊富な経験を有す。

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