4.122018
シリーズ 成長市場で勝つ(5)~新興国典型的な落とし穴
海外展開のお手伝いをしていると、その業務の多くにパートナーを探したいといったお話をいただきます。
海外、特に新興国進出となると対象地域の規制や独特な商習慣によってパートナー探しは必須となります。ただ、多くの企業はどのような見方でパートナーを選べばいいかわからないといった話をよく聞きます。
そこで、昔メモにとっていた内容を私の経験など織り交ぜながらご紹介したいと思います。
その1、不確実要素でパートナー
パートナー候補の迫力や熱意などその場の雰囲気に影響されないように注意する必要があります。
新興国企業は権利をつかむことには一生懸命になりがちで、そのチャンスをつかむためにその場の雰囲気作りはうまくても、本音では積極的な市場開拓に関心がないことも往々にしてありえます。受身でいてもマーケットは成長するし、新しい製品でも並べておけばいいかなと。そのような姿勢でマーケットと向き合い、我々の製品で既存マーケットを越えていくビジョンなど持たない可能性も十分あります。
そのような企業と付き合い始めたとしても短期的にはうまくリターンを享受することができるかもしれませんが、我々の大きな決断によって展開するねらいやうまみはパートナーと共に開拓して始めて得られる分野にあると思います。したがって、新たなネットワーク、取引先、事業領域を開拓する上での能力、意欲、積極性を客観的に測定することが重要です。
我々は複数のリファレンスチェックを実施することで、幅広い角度で最適なパートナーを見つけなければなりません。
その2、ロングリスト症候群
パートナー候補が数多くの顧客リストを提供してきた場合、それだけで妄信的に市場展開を想像し、最適なパートナーだと判断する傾向があります。そのようなリストを提供してきた場合は懐疑的なスタンスで実利を得られる対象か否か見極めるべきです。このリストは本当に生きたリストなのか、単純に過去から積み上げられた古いもので関係はもはやない可能性さえもあります。
逆に、これらの顧客すべてに関係性が存在する場合、そのパートナー候補はサービス開拓や顧客開拓といった新しい関係性を構築するための時間、資金、体制、物流等制約が付いて回り、我々の製品に対する義務およびコミットメントを満たすことができない場合があります。
我々はパートナー候補が既存製品による取引を継続する中で、十分に新規で取扱う我々の製品を展開できることを確認する必要があります。
その3、我々の製品を売りたくない
パートナー候補が我々の製品を取扱いたいと言ってきたとしても、市場参入させる意図がない場合があります。彼らの売りたい中心製品は競合ブランドかもしれません。
他社製品であっても実績はパートナー候補として非常に魅力的な要素となりますが、特に代理店の地域性が強くでる新興国においては、契約することでその地域で流通させないようにすることさえも可能となります。
つまり、我々の製品を市場へ参入させたいために契約することもありえるのです。
その4、印象妄信症候群
パートナー候補が彼らの製品の販促を彼ら自身でコントロールできているか確認する必要があります。
パートナー候補は、ときに優秀なスタッフ、広範な流通ネットワーク、そして広大なマーケット規模を背景に優秀な企業として映っています。
そのように映るパートナー候補であっても彼らの自社製品やサービスの流通を積極的に管理できておらず、ネットワークに委ねているようであれば本当に優秀なパートナーなのか不安が残ります。我々はパートナーを最終的に選ぶ前に印象でなく実態を慎重に検討することが不可欠です。
私のグローバルコラムは今までインドの流れできていますので、インドにおけるパートナー選びの考え方も一つご紹介します。
インドにおける小規模ディストリビューターのメリット
インドにおいて小規模ディストリビューターは、柔軟なディストリビューション戦略を展開する際に理想的なパートナーとなり得るかもしれません。
インドは多様な州で構成された広大な国家なため、ほとんどの流通業者や代理店が物流上の問題を抱えています。そのような環境下にあって顧客の住む地域内に存在する小規模のディストリビューターは、地方市場において独特の知見や関係性など競争上優位性があります。
優れた製品知識とマーケティングスキルを持つ小規模のディストリビューターは、大企業の一部門が付き合う大規模ディストリビューターより望ましい場合があります。
このような優位性がインド展開のメリットだと判断できる場合は、複数のパートナーの一つとして小規模ディストリビューターをパートナー候補として検討すべきである。
最後に、新興国市場へ展開するためには、優秀な現地パートナー獲得は不可欠です。
但し、その優秀なパートナーの見極めは非常に困難で一様に正解があるわけではありません。企業規模や求めるゴール、展開ステージによっても全く変わるでしょう。
今回の事例はパートナーを発掘する際の一つの考え方にしか過ぎませんが、もし皆さんの展開ステージで共通するシーンがありましたら参考にしてみてはいかがでしょうか。
谷村 真
株式会社gr.a.m 代表取締役
1976年8月生まれ。2002年から15年に渡り海外特に新興国へ進出する日系企業及び既に進出している日系企業を対象に調査・コンサル業務を提供。
産業調査分野において大企業から中小企業まで数多くの調査・コンサルプロジェクトに携わり、グローバルビジネスにおける第一線で活躍。
自治体・各種団体・企業セミナー等実績多数。