シリーズ 成長市場で勝つ(4) ~日本食材をASEANへ~

日本食レストラン

ASEAN飲食業界の実情

ASEANでも在留邦人数の多いタイ・マレーシア・シンガポールについて、外務省によると在留邦人はタイ67,000人、マレーシア22,000人、シンガポール36,000人と言われている。また現地に渡航するビジネスマンや観光客を含めるとこの数倍の日本人が毎年訪問すると言えるでしょう。各国外食マーケット規模はタイが2.8兆円程度、シンガポールが1兆円、マレーシアが1.1兆円だといわれており年々3%-5%で成長している。

また各国における日本食レストランの数は毎年どんどん増えており、少ない地域でも1000店舗、多い地域では2000店舗以上が存在し、今や各地にいる日本人だけでなく、ローカルの皆さんの胃袋を日本食で満たしています。
このようにASEAN飲食業界は非常に魅力的なマーケットとなっています。

但し、現地の食品卸企業によると日系企業による日本食レストランの数は地域によってそれほど変わらないか、減少傾向にあるようだ。一方で増加しているのはローカル企業が運営する日本食レストランである。

日系企業による日本食レストランは1-数店舗で展開することが多く、一方ローカル企業は10-数十にわたるチェーン展開、もしくは業態展開を行っている。
それでも以前は本物の日本食は日系企業によるレストランだといった認識もあったが、そのような認識は今や昔。ローカル企業も本物志向に変わってきています。

 

顧客ターゲットも現地にいる日本人を対象としている日本食レストランは衰退傾向だが、ローカル人を対象としている日本食レストランは年々成長している。
各国より公表されている一人当たりGDPを比較するとタイ5,500ドル、シンガポール53,000ドル、マレーシア10,000ドルだが、都市部だけをみるとタイ(バンコク)やマレーシア(クアラルンプール)も数倍であることが現地の実情です。

つまり日本の一人当たりGDPと比較するとシンガポールは既に日本を越えており、またその他の地域においても拮抗しつつある。もしくはまだまだ格差社会である地域事情によっては外食に使えるお金は現地ローカル人のほうが大きい可能性も否めない。

現地の日系企業は共通して現地化を目指している。過去には大量に駐在員を送り込んで現地日系企業を運営してきたが、送り込む駐在員は限定的で年齢も年々若くなってきている。
若手の駐在員は接待などすることもなく、安い給料で生活しなければならないためおのずと外食率も低くなり、また外食しても高い日本食レストランをさけるようになる。

一方で現地ローカル都市部では外食率はかなり高く、また中間層の若者でも週末や特別な日に日本食レストランで食事をすることが当たり前になりつつある。
つまりこのような現地事情を鑑みれば、ローカル人こそターゲットとすべきことは明らかである。

 

 

日本食材をASEAN展開するために押さえるべき3つのポイント

このような現地事情を商機として捉え日本食材を各国へ展開するためには、その各国業界の特徴をつかんだ展開を考えなければならない。
押さえるべきポイントは大きく分けると以下の3つです。

 

まず規制・税金面です。

各国によって輸入ライセンスの有無、食材規制、それに伴う税金面などを押さえなければなりません。例えば、タイにおいて魚貝類を輸入しようとするとカキは無税だが、その他に関しては無税‐5%-30%-60%まで存在します。
また、それぞれの関税率適用のため各種証明書が存在するため取扱う食材毎に留意しなければなりません。

次に、物流面です。

各区にそれぞれ非常に競争が激しく、現地で展開するためにはコスト及びスピードが非常に重要視されます。各国で既に多くの取引が行われているため物流スキームは多様に存在するが、取扱う食材によって適正な鮮度、場所、コストを見極めて最善の選択をする必要があります。

最後にパートナーです。
競争激しい各国であってコスト及びスピードが重視される飲食業界へ食材を提供するためには適正なパートナーを見つけることが重要です。
貿易商社、現地サプライヤー、飲食店、ハンドキャリーなど業態も様々存在するため、輸入ライセンスが必要な場合や物量、食材種類によってパートナーとなりえる対象は変わります。
また、各パートナーがどのマーケットを見ているのか、どのような食材をどの程度の量で取扱うことを求めているのか、これに加え新規参入食材に対するスタンスと決済・フォローを含んだ取引対応範囲など、あらゆる側面からパートナーの特徴と提供できる自身のキャパシティや展開ステージによって適正なパートナーを見つけることが重要です。

 

少し話が変わりますが、現地サプライヤーを回っていると共通した要望をうけることがあります。それは行政によるサポートです。補助金をつけてくれといった類ではなく、コスト及びスピードが重要視される各地域においては関税の観点で各種証明を取得する必要がありますが、証明書を発行するスピードを現地ビジネス実態に合わせ取り組んで欲しいという要望です。もちろん一日にしてはならない要望ではあるが、各地域で戦う日本企業は現地ローカル企業と熾烈な戦いをしており、特にルールに縛られて提供できないサービスはどんどんローカルに流れていっているという実情です。
ぜひ行政の皆さんもこのような実情に即して日系企業が戦える土壌を作っていってもらいたいところです。

 

変化は進化、無変化は死ぬか

最後に、日本では人口減、各種マーケットの縮小など引き合いに海外へ展開すべきといわれますが、各国現地マーケットはものすごいスピードで変化しています。
日本人マーケットは縮小傾向でローカルマーケットは伸びており、それに伴い競合や顧客が変わる中でどのように勝ち残っていくか知恵を絞り、足を動かさなければなりません。

ASEANマーケットは成長し魅力的なマーケットではありますが、ここに参入するためには、もちろん市場性やスキームを探ることも重要ですが、そこで戦う企業の「変化は進化、無変化は死ぬか」といったスタンスに共感し自身にも置き換え、現地の変化に対応できる柔軟な発想で対峙することが重要で、そのような日本企業だけが商機をつかめるのではないでしょうか。

執筆者のご紹介
谷村 真

谷村 真

株式会社gr.a.m 代表取締役

1976年8月生まれ。2002年から15年に渡り海外特に新興国へ進出する日系企業及び既に進出している日系企業を対象に調査・コンサル業務を提供。
産業調査分野において大企業から中小企業まで数多くの調査・コンサルプロジェクトに携わり、グローバルビジネスにおける第一線で活躍。
自治体・各種団体・企業セミナー等実績多数。

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