政権交代後のマレーシア~92歳のマハティール氏により初の政権交代

マハティール

マレーシアの首相に返り咲いたマハティール氏(出典:ロイター)

 

2018年5月9日に投開票が行われたマレーシア首相選挙。1957年の独立以来初の政権交代が起こった。その立役者は92歳のマハティール元首相である。

マレーシアでは、統一マレー人国民組織(UMNO)等による政党連合の国民戦線が与党連合として長きにわたり政権の座を独占してきた。UMNOの党首が歴代首相であり、そのマハティール氏は1981年~2003年に首相を務めている。

その与党の党首であったマハティール氏が今回は野党連合を率い、事前の予測を覆して勝利、首相の座を奪取した。
ナジブ前首相は2009年に政権の座に就いたが、ブミプトラ政策(マレー人優遇措置)の抜本的な見直しと、治安維持関連法規の改廃などの改革を行った。

これに対し、マハティール氏は異を唱えた。その後も、マハティール氏はナジブ前首相への批判を強めていったが、政府系の投資会社、ワン・マレーシア開発公社(1MDB)の横領疑惑とナジブ首相への巨額献金事件により、その批判は決定的となった。1MDBは、政府出資の投資会社で、ナジブ前首相が経営諮問委員会の委員長であったが、乱脈経営で巨額の負債を抱えてしまう。また、1MDBの資金横領疑惑も発覚したのである。

しかし、ナジブ前首相は疑惑を追及した人々を徹底的に追放し、マハティール氏もUMNOの離党に追い込まれる。これ以降マハティール氏は新党を作り、野党の立場からナジブ前首相降ろしを徹底的に進めるようになり、今回立候補するに至ったのである。
マハティール氏を掲げた野党は、国民の汚職への嫌気や、停滞する経済・物価上昇の不満から支持を広げて、事前の予想を覆して劇的・歴史的な勝利を収めた。

元々、マハティール氏は選挙期間中に政権を取れば、同性愛行為の罪で服役中(冤罪だと主張)のアンワル元副首相の恩赦手続きを進めると表明しており、国王の恩赦が認められれば、マハティール氏に代わって首相に就く方針を掲げてきたが、当選後、これをはっきりとは述べておらず、「首相は議員でなくてはならない」として、アンワル氏による補欠選挙などによる国政復帰を「可及的速やかにやる」と述べるにとどめていると報道されている。

このように、当初の予測より、マハティール氏は首相の座に長くとどまると見られ始めているのだが、その同氏はどのような政策を進めていくのだろうか。
マハティール氏は首相の座についてから、矢継ぎ早に大きな決定をし始めている。まず、2015年にナジブ前首相が導入し、国民の不満を集めていた物品・サービス税(GST)の廃止である。現行の6%から6月1日付でゼロ%にすることがすでに決定された。これは選挙公約通りとなる。マハティール氏は政権交代から100日以内の消費税廃止を公約としていたが、これを前倒しする形である。

また、5月28日にはシンガポールとクアラルンプールを結ぶ高速鉄道計画(HRL)を中止すると発表した。これは歳出抑制のためとのことである。マハティール氏は、マレーシアの財政赤字を悪化させかねない大規模な事業計画の見直しを公約としており、これを実現させた形である。同計画はクアラルンプールとシンガポール間の約350キロメートルを最高時速300キロ、90分で結ぶ予定だったが、「巨額の費用がかかり、この事業からわれわれは何の利益も見込めない」「高速鉄道に乗っても1時間節約できるだけだ」とした。同計画は、中国が、「一帯一路」の主要事業として、受注攻勢をかけていたものであるが、マハティール氏はさらに一帯一路の目玉である「東海岸鉄道計画(ECRL)」の中止を匂わせて、中国政府と交渉開始している。2020年の完成を目指す金融特区「TRX」や最大級の不動産開発計画である「バンダル・マレーシア」(高速鉄道の始発駅付近の開発)など、中国主導のプロジェクトの中止や大幅見直しが今後さらに表明されていくとみられている。

元々「ルック・イースト政策」、西洋化ではなく、イースト=日本などのアジアの先進国を見本に経済発展を促進しようとする政策の立案者であったマハティール氏。中国寄りの姿勢を強めていたナジブ氏に代わり、今後日本との関係を強化してくるかもしれない。日本にとっては転機となりうる今回の交代劇、今後も目が離せない。

執筆者のご紹介
福田 さやか

福田 さやか

東南アジアに特化した高等教育支援NPO法人、慶應義塾大学大学院助教、国際会議支援会社、アジア専門のコンサルティング会社を経て株式会社レインを創業、後にgram参画。

約20年に渡り海外に特化した経済調査、市場調査プロジェクト、イベント、コーディネーションなど豊富な経験を有す。

関連記事

おすすめ記事

  1. インドネシア大統領選
    2019年4月17日、インドネシア大統領選挙が実施される。
  2. 新小売
    「新小売」(New Retail、中国語で「新零售」)は、今や世界的な潮流となってきている。
  3. インドのキラナ
    India Brand Equity Foundationによると、2018年までに、インドの小売市...
ページ上部へ戻る
Translate »