4.122018
シリーズ 成長市場で勝つ(2) ~インド消費財市場へ販売 現地事情を把握して手法とタイミングを見極める~
人口13億人を抱えるインドでは、その半数が25歳未満と持続的な成長を期待できる有望なマーケットであり、特に消費財市場においては中間層の台頭により一層の可能性が見込まれています。前回のコラムではインド消費財市場へ参入する際の手法についてお話ししましたので、今回はタイミングについて考察をお届けしたいと思います。
お金がない!インドマーケット
2016年11月8日に突如発表されたた旧高額紙幣(旧 500 ルピー紙幣及び 1,000 ルピー紙幣)の無効化並びに新500ルピー紙幣及び 2,000 ルピー紙幣の導入によってインド市場は混乱に陥った。その目的は、偽造紙幣、マネーロンダリングなどブラックマネーの根絶を目指すもののようであるが、現金商売が主流のインド人にとっては商売自体ができない状況である。
廃止した高額紙幣の流通量は全体の80%を超え、翌日から新紙幣の交換にATMは長蛇の列と化した。インドはそもそも現金を用いる国である。ボストンコンサルティンググループの調査によると現金決済の割合は78%に上るとも言われています。銀行口座利用率も50%と低く、またクレジットカード保有率も2%程度である。給料の支払いも現金で行うこともあたりまえであり、このような状況によってモノを売らない、モノを買わない、モノを売れない、モノを買えない、給料が払えない、仕事をしないといった循環を作ってしまった。
ただ、政府が新紙幣を導入した目論みも理解できる。ブラックマネーもさることながらインドでは所得税を支払っているひとは全体の1%しかいないといわれています。
所得基準や農業従事者など幅広く無税になる政策があり、これをうまく利用して税金を逃れている国民が多数存在する。またこのような政策を利用する国民は銀行口座など利用しない、いわゆるタンス預金組みである。
一時的に世間からお金が消えたようにみえる新紙幣の導入もこのような商取引の実態や現金管理できていない現況を打破するために少し強引ではあるが実施し、政府が打ち出した政策であるすべての国民に銀行口座を開設させ近代的金融サービスを普及させることを目的とした「ジャン・ダン・ヨジャナ」や行政事務の電子化を進める「デジタル・インディア」などと歩調を合わせ、着々と商取引の透明化や税収増を目論んでいる。
つまりインドでは高額紙幣の回収、交換によりどの程度紙幣が流通しているのか把握し、ブラックマネーを根絶し急速に近代金融化を促している。
余談ではあるが、この新紙幣導入の影響は経済や商売だけでなく家庭にまで影響を及ぼしている。
経済の側面では、この施策が個人消費の足かせとなり、急速に下押し圧力がかかる状況に陥っており、
商売の側面では、前述したようにインドでは約8割が現金商売である。買えない、買わない、払えないといった形で特に小売、建設業、一次産業の関わるひとたちにとっては死活問題にまでなっている。
家庭の側面では、高額紙幣の交換により、家庭におけるアングラマネーであるへそくりが大きな問題を引き起こしている。期限内に銀行口座へ振り込まなくてはならなかったり、1日3000ルピーしか交換ができないために、ATMや銀行へ走らなくてはならなくなりこつこつ貯めたへそくりが白日の下にさらされ、大きな家庭不和を生むこととなった。
その他、現地の新聞によると学生が授業に出ず一日中ATMに並びながら勉強する姿が掲載されるなど、予想を超えた状況を生むなどあらゆる側面で悪影響を及ぼすこととなった。
経済、商売には常に政策等によるフォローがあると思われるが、ぜひ家庭不和や学生環境にもうまくフォローできる政策を打ち出して欲しいものです。
今回のインドの事象はあらゆる想定の枠組みを越えてはいるが、まさに予測不能な事象が起こりえるのがインドである。このように不測の事態がおきた場合は、インドには一定のリスクはあるものだと捉えその事象に柔軟に対応していくしかない。
ただ、インドで起こりえる事象はすべて不測の事態かといえばそうではない。
それはインドの文化、歴史、商習慣・環境、意思、行動によって作られることがほとんどである。
例えば、国民の休日を知っていますか、そのお祭りは何教ですか、余暇はどこに、娯楽は、スポーツはいつ開催しますか、など消費を牽引する現地ならではの事情を知ること、またその事情がどのような意思や行動につながっていくのか把握することでタイミングに合った施策を展開することが可能となりえるのではないでしょうか。そのために常に現地事情にアンテナを張って最善のタイミングを図ることが重要なのである。
最も怖いことは、情報を持たずタイミングを図れないケースである。
1年前に計画した予定調和を推し進め、情報の機微に触れず不測の事態を日常として捉え戦略を作っているかもしれないかもしれない。
このように現地事情を捉えてタイミングを図ることはインドだけでなく経験則で計れない成長国では共通して言える極めて重要な要素なのではないでしょうか。
最後に、個人的には個人消費が回復に至るにそれほど時間はかからないのではと感じている。
特にこの一連のドタバタ劇により抑えられたインド国民の消費欲求は条件が整えば大きく反発するのではないかと思っています。
また、多くの見方では中長期的には効果的であるといったようにポジティブな様相であり、このようなお金の透明化、近代金融システムの浸透、キャッシュレス化、デジタル化といった流れは経済的側面だけでなくインドの商習慣、意識、行動に大きな変化を生み、やがて新たなチャンスが生まれる。
そのタイミングをつかむために常に変化を捉えられる体制で臨みたいものである。
谷村 真
株式会社gr.a.m 代表取締役
1976年8月生まれ。2002年から15年に渡り海外特に新興国へ進出する日系企業及び既に進出している日系企業を対象に調査・コンサル業務を提供。
産業調査分野において大企業から中小企業まで数多くの調査・コンサルプロジェクトに携わり、グローバルビジネスにおける第一線で活躍。
自治体・各種団体・企業セミナー等実績多数。